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札幌地方裁判所 平成10年(ワ)5152号 判決 2000年11月30日

主文

一  被告は、原告佐藤麻梨奈に対し、九七〇九万七一五八円〔更正決定 九七〇九万七一五四円〕及びうち八二五八万〇〇三二円に対する平成二年一一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告佐藤憲一及び原告佐藤典子に対し、それぞれ二〇〇万円及びこれに対する平成二年一一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は二分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

五  この判決は、一項及び二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告佐藤麻梨奈(以下「原告麻梨奈」という。)に対し、一億八五八〇万八九七〇円及びこれに対する平成二年一一月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告佐藤憲一(以下「原告憲一」という。)及び原告佐藤典子(以下「原告典子」という。)に対し、それぞれ三〇〇万円及びこれに対する平成二年一一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二事案の概要

一  本件は、交通事故による受傷のためいわゆる植物人間状態となった原告麻梨奈並びにその両親である原告憲一及び原告典子が、加害車両を運転していた被告に対し、民法七〇九条に基づき、右による損害の賠償を求めた事案である。

二  前提事実(争いのない事実以外については証拠を併記)

1  原告麻梨奈(昭和五八年九月三日生)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、後記のとおりの傷害を負った。

(一) 日時 平成二年一一月二五日午後三時二分ころ

(二) 場所 札幌市豊平区美園三条八丁目五番先路上

(三) 態様 被告運転の加害車両が、脇見運転のため、センターラインをはみ出し、対向車線を走行していた杉野雅重運転の被害車両に衝突し、これに同乗していた原告麻梨奈が傷害を負った。

2  被告は、民法七〇九条により、本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告麻梨奈は、本件事故により急性硬膜下血腫、びまん性軸索損傷、急性硬膜上血腫、頭蓋骨骨折、全身打撲の傷害を負い、中村記念病院(札幌市中央区南一条西一四丁目所在)に入院し、その三日後には意識を回復し、その一〇日後には自力歩行が可能な状態まで回復したものの、平成二年一二月一一日、頭部外傷に基づく脳動脈瘤破裂が生じ(乙三)、緊急手術を受けたが、危篤状態に陥り、平成三年四月末ころまでこれが継続した。危篤状態を脱した後も続発性水頭症、外傷性てんかんが出現し、一進一退の病状が続いたが、平成七年五月一一日、症状固定と診断され、同年一二月八日、退院した。

しかし、原告麻梨奈は、右傷病の結果、左上肢、左手指及び両下肢の随意運動が不能となり、手足関節に著しい可動域制限が残り、座位保持及び寝返りが不能で、常時臥床の状態にある。そして、意識障害が持続し、有意な発語はなく、尿便は失禁状態で食事の自力摂取も不能である。原告麻梨奈に生じた後遺障害は、後遺障害別等級表第一級三号に該当するものであり、常に介護を必要とする。

4  原告麻梨奈は、右退院後も数回中村記念病院に通院し、平成七年一二月一五日から月に一回程度の割合で北海道立小児総合保健センター(小樽市銭函に所在)に通院して主としててんかんの治療を受けているほか、右症状の悪化を防止するため、月二回程度の割合で堀江整形外科の医師の往診を受け、週二回の割合でみずほ看護ステーションの看護婦の訪問を受け、全身のチェックを受けている(甲一七、乙五五ないし六七、原告典子本人、弁論の全趣旨)。

三  争点について

本件の争点は、本件事故によって原告らが被った損害の範囲であり、この点に関する当事者双方の主張は、次のとおりである。なお、平成一二年九月二一日までに発生した原告麻梨奈の治療費については、被告から病院等に対し直接支払われており、それ以外に被告から原告麻梨奈に対し損害の内金として九二四〇万四八九八円が支払われていることは、当事者間に争いがない。

1  原告ら((一三)のみ原告憲一及び原告典子の主張であり、その余はすべて原告麻梨奈の主張である。)

(一) 入院雑費 二四九万四九二一円

原告麻梨奈が平成二年一一月二五日から平成七年一二月八日まで中村記念病院に入院中におむつ等の購入に充てられた実費金額である。

原告らは、(一)、(三)及び(四)の各損害について、被告の損害保険会社に対し、それぞれに関する領収証等を提出し、同会社の了解の下、それぞれの損害費目として支払を受けていたものであるから、原告らの主張額が認められるべきである。

(二) 入院付添費 一六二九万円

原告麻梨奈の状態が重篤であり、容体が安定した後も前記のとおり二四時間の介護が必要であったから、入院付添費は一日一万円が相当であり、これに症状固定日までの一六二九日を乗じると右金額となる。

(三) 交通費 七五九万六三六八円

(1) 付添者の交通費 二四八万四〇〇〇円

原告麻梨奈の入院中の介護は、原告典子、叔母の杉野昌子、祖母の佐藤郁子の三名により、入院中の全期間にわたり二四時間体制で行われたものであり、泊まり込んでいた原告典子を除き、交通費として杉野昌子につき一か月一万七四〇〇円、佐藤郁子につき一か月二万四〇〇〇円を要したから、入院期間六〇か月の総額は二四八万四〇〇〇円に達する。

(2) 見舞者の交通費 二七〇万円

原告麻梨奈の祖父である佐藤道之介は、入院中一日も欠かさず、自動車で通い、同原告を見舞っていたものであり、そのためにガソリン代及び駐車料金として一か月三万五〇〇〇円を支出し、また、原告憲一は、勤務の合間や休日を利用し、頻繁に自動車で通い、原告麻梨奈を見舞っていたものであり、ガソリン代、高速道路通行料及び駐車料金として一か月一万円を支出したから、これらの費用の入院期間六〇か月の総額は二七〇万〇〇〇〇円に達する。

(3) その他 二四一万二三六八円

原告麻梨奈が入院中、北海道立小児総合保健センター及び身体障害者学校に通うための交通費や、原告典子が北広島市の自宅と中村記念病院とを往復するための交通費等として右金額を支出した。

(四) 入院付添者の宿泊費 八七四万三九〇〇円

原告典子は、平成三年六月までは中村記念病院に泊まり込んで原告麻梨奈の介護をしていたが、体調を崩したため、同病院の近くに賃料月額五万円の賃貸マンションを借り(その後、三か月後、賃料八万円のマンションに移る。)、右マンションから同病院に通い、平成四年四月以降、母親不在の生活が長期化するおそれがあったことから、所帯用の賃貸住宅を借り、原告憲一及び長女奈々美と同居しながら、同病院に通った。右賃貸住宅の賃料は月額一四万円であり、他に駐車料金として月額三万円が必要であり、右賃貸借は、平成七年一一月まで継続された。以上のような費用として右金員を支出した。

(五) 将来の介護費 七六九九万二三七〇円

退院後の自宅における原告麻梨奈の介護は、原告典子、杉野昌子のほか、佐藤郁子と交代した原告典子の実母松田谷修子の三名によって入院中と同様二四時間体制で行われているが、今後、原告麻梨奈が成長する一方、介護者らが老齢化し、ますます介護が困難となり、原告典子が六五歳を迎える平成二九年以降は職業介護人を付することが確実であることなどからすると、一日七〇〇〇円の介護費が認められるべきである。そうすると、年額介護費は二五五万五〇〇〇円となるから、これに、症状固定時の原告麻梨奈の平均余命七二年に対するホフマン係数三〇・一三四を乗じると七六九九万二三七〇円となる。

(六) 将来の諸費用 四三九九万五六四〇円

原告麻梨奈は、死亡するまで前記のような通院治療を受けるほか、入院治療も幾度か繰り返すことが確実に予想され、また、介護に際しておむつ代、消毒剤等として月額三万五〇〇〇円の支出があるほか、エレベーター点検費、介護用ベッド、マットレス、車椅子、吸引器、自動車リフト等の購入費及び維持管理費が必要であることなどを考慮すると、将来の諸費用として一日四〇〇〇円が認められるべきである。そうすると、その年額は一四六万〇〇〇〇円となるから、これに、症状固定時の原告麻梨奈の平均余命七二年に対するホフマン係数三〇・一三四を乗じると四三九九万五六四〇円となる。

将来の医療費について、児童福祉法に基づく医療給付を受けることができるとしても、これは、損害の補填を目的としない公的扶助であり、その扶助が原告麻梨奈の生存期間中必ず続くとの保障は全くないのであるから、このような事情を損害の算定に当たって考慮することは許されない。

(七) 自宅専用設備工事費 二四〇〇万円

原告らは、本件事故当時、北広島市に自宅を構えていたが、原告麻梨奈の後遺障害の程度に照らすと、右自宅から北海道立小児総合保健センターに通院するのは困難であり、また、前記杉野昌子の援助を受ける必要もあることから、その近隣である肩書住所地に、介護のための専用設備を備えた自宅を新築し、平成七年九月六日に転居した。介護のための専用設備のための費用として少なくとも二四〇〇万円を要した。

(八) 逸失利益 四六一二万五六七一円

平成九年度の賃金センサス女子学歴計年齢計の年収三四〇万二一〇〇円に、一八歳から六七歳までの四九年間の就労可能年数のライプニッツ係数一三・五五八を乗じると、原告麻梨奈の逸失利益は四六一二万五六七一円となる。

(九) 入院慰謝料 六〇八万〇〇〇〇円

(一〇) 後遺障害慰謝料 三〇〇〇万円

(一一) 弁護士費用 一七〇〇万円

(一二) その他の損害 一四五一万七一二二円

原告麻梨奈は、被告から次のとおり損害の内金として一部の支払を受けたが、各支払について、本件事故日から各支払日の前日までの間、年五分の割合による遅延損害金が発生している。

年月日 支払 遅延損害金

(1) 平成七年二月一五日 五〇万円 一〇万五六一六円

(2) 同年二月二五日 三四五〇万円 七三三万四七九四円

(3) 同年八月一四日 三〇〇〇万円 七〇七万六七一二円

(一三) 両親の固有の慰謝料 六〇〇万円(各三〇〇万円)

原告麻梨奈に生じた後遺障害は、余りに深刻かつ悲惨であり、事故時の年齢や症状固定に至るまでの症状等を考慮すると、その両親である原告憲一及び原告典子の精神的損害を慰謝するためには、少なくともそれぞれに三〇〇万円を支払うべきである。

(一四) 結論

原告麻梨奈は、被告に対し、(一)ないし(一二)の合計の損害額から前記既払金を控除した残金の一部として一億八五八〇万八九七〇円及びこれに対する本件事故日である平成二年一一月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、また、原告憲一及び原告典子は、被告に対し、各三〇〇万円及びこれに対する右平成二年一一月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告

(一) 入院雑費

原告麻梨奈の主張は知らない。

被告の損害保険会社は、原告ら主張の(一)、(三)及び(四)の各損害額について、各費目の損害額として認めて支払をしたものではない。

(二) 入院付添費

原告麻梨奈の症状に照らすと、家族が付き添うことで介助できる範囲は限られていたから、一日一万円の入院付添費は高すぎる。

(三) 交通費

原告麻梨奈の症状は、専ら看護婦による専門的な介護が必要であり、医学的には何人もの近親者の付添が必要な状態ではなかったものであるから、仮に近親者の付添看護のための交通費を認める余地があるとしても、せいぜい一人分として月額一万七四〇〇円が認められるにすぎない。

(四) 入院付添者の宿泊費

近親者の入院付添費が認められることはあるが、これとは別に宿泊費を認める必要は全くない。

(五) 将来の介護費

原告麻梨奈は、寝たきりであり、屋内を行動したりすることもない。他方、原告らの自宅には、後記のとおりトランスファーシステム等の介護専用設備が設置され、介護しやすい環境となっている。これらの事情を考慮すると、将来の介護費用として一日七〇〇〇円は高すぎる。

原告麻梨奈は、自動車事故センターから一日四五〇〇円の介護料の支払を受けることができるから、これを控除すべきであり、更に六五歳以降は介護費用保険が適用され、全く介護料が不要となることも考慮すべきである。

そして、将来の介護費の始期は、本件口頭弁論終結時であると考えるべきである。また、原告麻梨奈のように、頭部後遺障害によっていわゆる植物人間ないしそれに近い状態となった場合、肺炎や尿路感染症等の合併症の危険もあり、余命は一般人より短くなるのが通常であり、症状固定日(平成七年五月一一日)から二〇年と考えざるを得ないのが実情であるから、将来の介護費の終期は、平成二七年五月とすべきであり、中間利息控除はライプニッツ方式によるのが相当である。

(六) 将来の諸費用

原告麻梨奈の将来の医療費については、児童福祉法二〇条による育成医療給付を受けることができ、これを受けると、原告憲一の年収に照らすと、月額六七五〇円の支出にとどまることが予想される。原告らの主張する介護機械類の購入費や維持管理費が必要であることを考慮しても(なお、車椅子の交換は、身体障害者福祉法二〇条に基づき公的扶助としてしてもらえる。)、将来の諸費用として認められるのは一日数百円程度である。

(七) 自宅専用設備工事費

原告が主張する介護専用設備については、次のようなことを指摘することができる。介護専用設備として必要性が認められるものは少なく、その設置費用は四二六万六九六二円を超えることはない。

(1) 玄関前のスロープ工事について

車椅子の出入りのためには着脱式スロープ(一〇万円で十分である。)を用意すれば足り、スロープ工事まで必要がない。仮にスロープ工事が必要であったとしても、アーバンロック舗装は必要がない。アスファルト舗装であれば一三、四万円でできるから、家族との共用であることを考え、必要額は七万円にとどまる。

ロードヒーティングについては、介護専用設備としての必要性は認められない。

(2) 玄関その他戸外との出入口における特注ドアについて

原告麻梨奈が使用する車椅子の横幅(五八・五ないし六三・〇センチメートル)を大きく超えている特注の玄関ドアは不要である。

また、バルコニーの外部サッシドアは、一階については設置の必要性があるが、二階についてはそもそも原告麻梨奈が居住するのが危険であるから、その必要性は認められない。そして、一階の外部サッシドアは、家族の便益のためでもあるから、その設置費用の半額のみが認められるべきである。

(3) 玄関床について

玄関床には玄昌石が使用されているが、介護専用設備としての必要性はない。

(4) 屋内の床材について

屋内の床にコルクタイルが使用されているが、コルクタイルは、滑りやすさ、衝撃の程度のいずれからしても、車椅子の使用にとって利点があるものではなく、介護専用設備としての必要性はない。

(5) 屋内各所の幅広ドアについて

屋内各所に設置されている幅広ドアは、いずれも高級材を使用し、凝った細工が施されているものであり、介護専用設備としての必要性は全くない。

(6) 引っ込み型収納家具の設置について

車椅子を使用するからといって収納家具を引っ込み型にする必要は認められない。

(7) トランスファーシステムについて

原告麻梨奈は、自力で洗顔や排泄ができるわけではないから、ベッドと洗面台及びトイレとの間のレールとターンテーブルは不要であり、ベッドから浴室へのレールの設置のみで足りる。その費用としては、全体の三分の二である二〇五万〇六六六円を超えることはない。

(8) ホームエレベーターについて

車椅子使用者の場合、災害時の避難等を考えると、生活空間は常に一階にすべきであり、ホームエレベーターは、介護専用設備としての必要性はない。

(9) 浴室について

かなり広い浴室であり、特に高価なブローバス装置が設置されている。家族が受ける便益もかなりあると思われ、介護専用設備費用としては浴室設置費用の半額を超えることはない。

(10) バルコニーについて

バルコニーは、障害を補助するというよりも、生活空間の向上を目的とするものであり、介護専用設備ということはできない。

(11) システムキッチンについて

原告麻梨奈がこれを利用する可能性はなく、介護専用設備としての必要性は認められない。

(12) 建仁寺垣について

竹を使った目隠し用の垣根であり、介護専用設備としての必要性は全くない。

(13) 高断熱工事について

原告麻梨奈のてんかんの発作を抑えるために、室内の温度むらを防止するための高断熱工事の必要があるとしても、これによって家族全体が快適な生活を送れることになるのであるから、介護専用設備費用としてはその四分の一に限って認められるべきである。

(14) 階段について

原告麻梨奈を二階に上げることは危険であり、階段は、介護専用設備としての必要性を欠く。

(15) 設計料・現場管理費について

介護専用設備を設置したことによって特別に設計料・現場管理費が増額した事実は認められない。

(八) 逸失利益

原告麻梨奈は、今後回復して日常生活を送れるようになる見込みはなく、将来の生活費用はある程度の日常生活を送れる後遺障害者よりも低額と考えられるから、生活費として二〇パーセントの控除をすべきである。このことは、原告麻梨奈の将来の生活の便益のために介護専用設備工事費、将来の介護費等が認められることを考慮すればいっそう肯定されるというべきである。

(九) 入院慰謝料

入通院慰謝料の基準等に照らしても、三五〇万円を超えることはないというべきである。

(一〇) 後遺症慰謝料

原告麻梨奈の後遺症が後遺障害等級表一級三号の中で最も重いケースであると断言できず、家族の中で占める地位をあわせ考えると、三〇〇〇万円の後遺症慰謝料は高すぎる。

(一一) その他の損害

被告が原告麻梨奈に対し損害賠償の内金を支払った時は、当然、これが元本に充当され、別途これに対する遅延損害金は請求しないという前提の下に支払われたものであるから、遅延損害金は各支払時に放棄されたか、請求しないとの同意があったと考えられるべきである。

仮にそうでなくとも、各支払時から三年を経過しているから、それに対する遅延損害金は時効消滅している。

(一二) 両親の固有の慰謝料

介護専用設備工事費や原告麻梨奈の後遺症慰謝料としてかなり高額の請求がなされていることなどを考慮すると、両親固有の慰謝料を認める理由は見出し難い。

第三当裁判所の判断

一  入院雑費 二二〇万八〇〇〇円

原告麻梨奈は、平成二年一一月二五日から平成七年一二月八日までの一八四〇日間、中村記念病院に入院していたものであり、一日につき入院雑費一二〇〇円を要したものと認められるから、次のとおり、入院雑費合計額は二二〇万八〇〇〇円となる。

一二〇〇円×一八四〇日=二二〇万八〇〇〇円

原告麻梨奈は、入院雑費、交通費及び入院付添者の宿泊費について、被告の損害保険会社から了解を得て、それぞれの費目として支払を受けていたものであるから、同原告の主張額が認められるべきである旨主張するけれども、損害額が未確定のうちになされる損害保険会社の支払は、損害全体に対する内金としての性質を有するものであり、特定の損害費目についてなされるものではないと解され、被告の損害保険会社が特定の損害費目として支払うことを了解したとまで認めることは困難であるから、同原告の右主張は採用することができない。

二  入院付添費 一一〇四万円

原告典子本人及び弁論の全趣旨によると、原告麻梨奈の受傷の状況からして付添の必要性があり、原告典子、叔母の杉野昌子、祖母の佐藤郁子が二四時間体制で付き添っていたものであり、入院一日につき六〇〇〇円の入院付添費を認めるのが相当であるから、次のとおり、入院付添費合計額は一一〇四万円となる。

六〇〇〇円×一八四〇日=一一〇四万円

三  交通費 五四九万六三六八円

1  付添人の交通費 二四八万四〇〇〇円

甲一一、原告典子本人及び弁論の全趣旨によると、原則として病院に泊まり込んでいた原告典子を除き、杉野昌子につき月額一万七四〇〇円、佐藤郁子につき月額二万四〇〇〇円の交通費を支出したものと認められるから、入院期間六〇か月の総額は二四八万四〇〇〇円となる。

2  見舞者の交通費 六〇万円

甲一一及び弁論の全趣旨によると、原告憲一は、原告麻梨奈の入院期間中、頻繁に自動車で通い、同原告を見舞い、ガソリン代、高速道路通行料及び駐車料金として少なくとも月額一万円を支出したものと認められるから、入院期間六〇か月の総額は六〇万円となる。

なお、原告麻梨奈の祖父佐藤道之介が見舞いのために支出した交通費は、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

3  その他の交通費 二四一万二三六八円

甲一一及び弁論の全趣旨によると、原告麻梨奈の入院中、同原告が北海道立小児総合保健センター(小樽市銭函所在)に通院するための交通費(一回の往復につき約二万三〇〇〇円)及び原告典子が付添のため北広島市の自宅から中村記念病院に通うために支出した交通費として少なくとも合計二四一万二三六八円を支出したものと認められる。

四  入院付添者の宿泊費について

原告典子は、前記のとおり、北広島市の自宅から中村記念病院に通い、原告麻梨奈の付添に当たっていたものである。原告麻梨奈の主張のとおり、仮に原告典子が平成三年六月ころから同病院近くのマンションを賃借し、同所から同病院に通っていたとしても、自宅から同病院に通うことができた以上、マンションを賃借する必要性を肯定することは困難である。したがって、原告麻梨奈主張の入院付添者の宿泊費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない(なお、原告典子が平成三年六月ころ以後も自宅から同病院に通っていた場合の交通費は、本件事故による損害に当たるが、その具体額についての主張立証はない。)。

五  将来の介護費 四二四九万四一〇三円

原告麻梨奈は、前記のとおり、常に介護を必要とする状態にあるところ、原告典子本人及び弁論の全趣旨によると、原告麻梨奈が平成七年一二月八日に退院した後、肩書住所地の自宅において、原告典子、杉野昌子、原告典子の実母松田谷修子の三名による介護を受けており、今後も同様の状態が続くことが見込まれていることが認められる。そして、介護費としては一日六〇〇〇円が相当であり、退院時(年齢一二歳)の平均余命は七二年(七二年間のライプニッツ係数一九・四〇三七)であるから、次のとおり、退院後の将来にわたる介護費の総額は四二四九万四一〇三円となる。

六〇〇〇円×三六五日×一九・四〇三七=四二四九万四一〇三円

被告は、原告麻梨奈は自動車事故センターから一日四五〇〇円の介護料の支払を受けることができるから、これを控除すべきであると主張するけれども、右介護料は公的扶助として支給されるものであり、損害の補填の性質を有するものではなく、その支給があったとしてもそれを控除することはできないから、被告の右主張を採用することができない。また、被告は、将来の介護費が必要となる期間は二〇年にすぎないと主張し、たしかにいわゆる植物人間の平均余命が一般人に比して短いということはできるとしても、個々の事情を度外視して一律に短命であるとして損害の認定をするのは相当ではなく、特別に原告麻梨奈の余命が二〇年にすぎないと認めるべき証拠もないから、被告の右主張も採用することができない。

六  将来の諸費用 二〇五〇万八〇四七円

原告麻梨奈は、死亡するまで前記のようにてんかんの治療を受け、症状の悪化を防止するための治療等を受け続ける必要があり、弁論の全趣旨によると、平成一一年中に右治療のために要した費用は五八万円程度(被告の平成一二年九月二六日付け準備書面添付の別表)であったことが認められる。そして、原告典子及び弁論の全趣旨によると、介護に際しておむつ代、消毒剤等として月額三万五〇〇〇円を要するほか、介護用ベッド、マットレス、車椅子、吸引器、自動車リフト等の購入費及び維持管理費が必要であることが認められる。以上によると、原告麻梨奈の介護に伴う将来の諸費用として少なくとも月額一〇万円、年額一二〇万円を要すると認めるのが相当である。原告麻梨奈の退院時の平均余命は七二年であるから、次のとおり、退院後の将来にわたる介護に伴う諸費用は二三二八万四四四〇円となる。

一二〇万円×一九・四〇三七=二三二八万四四四〇円

しかし、前記のとおり、原告麻梨奈の退院後、平成一二年九月二一日までの治療費については既に支払済みであることから、これを控除する必要があるが、将来の諸費用を算定するに当たっては、原告麻梨奈の生活ないし症状が比較的安定してきた平成一一年の治療費を基準としたから、実際の既払額を控除するよりも、右基準による治療費年額五八万円が、退院の翌日である平成七年一二月九日から平成一二年九月二一日までの四年二八八日間について支払われたものとみて、これを控除するのが相当である。次のとおり、右控除額は二七七万六三九三円となる。

五八万円×四+五八万×二八八÷三六六=二七七万六三九三円

したがって、右算出額から右金額を控除すると、二〇五〇万八〇四七円となる。

なお、被告は、原告麻梨奈は児童福祉法二〇条の育成医療給付を受けることができるから、将来の治療費は少額で足りる旨主張するけれども、右育成医療給付は公的扶助の一つであり、しかも、原告憲一の収入等の諸条件により給付内容が異なるものであり、いずれにしても本件事故による損害の認定には影響せず、かつ、損害の補填の性質を有するものではないから、被告の右主張は採用することができない。

七  自宅専用設備工事費 七二四万六〇七一円

1  原告典子本人によると、原告憲一、原告典子夫婦は、平成七年一〇月ころ、肩書住所地に自宅を建て、転居したこと、杉野昌子の介護を受けやすくすることもあって、同女の自宅の近くに右新居を建てたこと、新居は、原告麻梨奈の介護のための専用設備を設けたため、そのことによる建築費の増額があったことが認められる。

2  そこで、右新居の設備のうち、介護専用設備としての必要性が認められるもの及びその費用についてみるに、甲七ないし九、一四、証人川内谷孝二、原告典子本人及び弁論の全趣旨によると、次のとおり認められる。

(一) 玄関前スロープ 一五九万二五〇〇円

車椅子による出入りを安全にかつ容易にしやすくするために必要な設備であり、スロープに伴うアーバンロック舗装、排水溝の設置、ロードヒーティング工事も含まれ、その工事費用は一五九万二五〇〇円であった。

(被告は、着脱式のスロープで足り、アーバンロック舗装やロードヒーティング工事は必要性がない旨主張するけれども、証人川内谷孝二によると、着脱式のスロープは着脱の際に過大な労力が伴う可能性が否定できず、アーバンロック舖装やロードヒーティングは車椅子を安全に作動させるために必要であることが認められるから、被告の右主張は採用することができない。)

(二) 幅広の外部サッシドア 一二万二四〇〇円

車椅子により戸外バルコニーに出る際に幅広のサッシドアが必要であり、通常のサッシドアを設置する場合の価格との差額は一二万二四〇〇円であった。

(被告は、家族の便益のためでもあるから、右差額の半分のみが認められるべきである旨主張するけれども、右幅広ドアの設置は、原告麻梨奈のために必要となったのであるから、右差額の全体が損害と認められるべきであり、実際上家族もその便益に与れるとしても、それは設置したことによる結果にすぎないから、そのことによって損害を半分とみるのは相当ではない。)

(三) 玄関のスロープ 六万円

車椅子による出入りを可能にするための設備であり、通常の場合と比べてその工事費に六万円の差額が必要であった。

(四) トランスファーシステム 二〇五万〇六六六円

トランスファーシステムは、天井にレールを架設し、吊り具で原告麻梨奈を吊り、レールに沿って移動させるというものであり、原告麻梨奈の部屋から浴室、トイレ及び洗面所へのレールが架設されており、それに要した工事費は三〇七万六〇〇〇円であった。そして、原告麻梨奈を入浴させるためにトランスファーシステムが利用されているが、原告麻梨奈はトイレ及び洗面所を利用できる状態ではなく、現にトランスファーシステムのうち、トイレ及び洗面所に移動させる部分は使用されていない。したがって、右工事費のうち三分の二に相当する二〇五万〇六六六円が介護専用設備費用であると認めるのが相当である。

(五) 浴室 一六七万二九八〇円

トランスファーシステムを採用したため、通常のユニットバスが使用できず、洗い場を広くし、かつ、てんかん発作を防止するためできる限り浴室内の気温差を少なくするべく、特別の浴室工事が行われた。また、寝たきり状態の原告麻梨奈の肌を刺激して症状の悪化を防止するためのブローバス装置も施された。通常のユニットバスを設置する場合との差額は一六七万二九八〇円であった。なお、浴室に設置された建仁寺垣は、介護専用設備とは認められないから、そのための費用五五万〇八〇〇円は損害に当たらない。

(被告は、浴室工事の右費用について、家族が受ける便益もあるから、その半額のみが認められるべきである旨主張するが、既に外部サッシドアについて述べたと同様、右主張を採用することができない。)

(六) 高断熱工事 一五五万〇五二五円

原告麻梨奈のてんかん発作を防止するため、高断熱工事を施工し、換気・空調装置を取り付ける必要があり、そのための費用は一五五万〇五二五円であった。

(被告は、高断熱工事の右費用について、家族が受ける便益もあるから、その四分の一に限って認められるべきである旨主張するが、既に外部サッシドアについて述べたと同様、右主張を採用することができない。)

(七) 勝手口の設置 一九万七〇〇〇円

火災等の場合に、原告麻梨奈を早く避難させるため、同原告の部屋の近くに勝手口を設置する必要があり、その設置費用は一九万七〇〇〇円であった。

(八) 小計 七二四万六〇七一円

3  原告麻梨奈は、その他についても介護専用設備としての必要性が認められるべきである旨主張する。しかしながら、乙七六、証人川内谷孝二、原告典子本人及び弁論の全趣旨に基づき検討すると、まず玄関及び屋内の幅広ドアの設置並びに引っ込み型収納家具の取付については、麻梨奈の車椅子の横幅を考えれば通常のもので足り、特別な仕様にする必要があったとは認められず、玄関の玄昌石及び屋内床のコルクタイルの使用についても、これらが通常の材料で足りず介護に必要であることを認めるに足りる証拠はない。次に、ホームエレベーター、階段及びバルコニーの設置については、原告麻梨奈の身体状態等に照らすと、同原告の生活の場は一階であり、むしろ災害の場合には二階は危険であるから、二階における生活を前提としたエレベーター、階段及びバルコニーの設置の必要性は認められない。原告麻梨奈にできる限り広い生活空間を確保してやりたいとの原告憲一、原告典子夫婦の心情は理解できるけれども、損害の公平な分担という損害賠償法の理念に照らし、その心情のみから右必要性を肯定することはできない。また、システムキッチンの設置の必要性がないことはいうまでもない。最後に、設計料・現場管理費については、右2で認定した介護専用設備の設置工事をすることによって設計料・現場管理費がいくら増額するのかを具体的に認めるに足りる証拠はない。以上のとおり、右認定の介護専用設備のほかには、介護専用設備としての必要性が認められるものはない。

八  後遺症による逸失利益 四一八九万二三四一円

前記のとおり、原告麻梨奈(昭和五八年九月三日生)は、平成七年五月一一日(一一歳)症状固定と診断され、その後遺障害は後遺障害等級表第一級三号(労働能力喪失率一〇〇パーセント)に該当する。同原告は、本件事故に遭遇しなければ、一八歳から六七歳まで稼働し、この間、少なくとも平成六年賃金センサス女性労働者学歴計年齢計の年収額三二四万四四〇〇円を得ていたものと認められる。したがって、逸失利益の総額は、次のとおり、四一八九万二三四一円となる。

三二四万四四〇〇円×一×(一八・六九八五-五・七八六三)=四一八九万二三四一円

なお、被告は、生活費として二〇パーセントの控除をすべきである旨主張するけれども、原告麻梨奈については今後も生活費が必要であることは通常人と変わりなく、その程度が通常人に比して少ないと考える根拠も薄弱であるから、被告の右主張は採用することができない。

九  入院慰謝料 五三〇万円

前記のとおり、原告麻梨奈は、平成二年一一月二五日から平成七年一二月八日までの一八四〇日間(六〇か月余り)入院していたものであるから、入院慰謝料としては五三〇万円が相当である。

一〇  後遺障害慰謝料 三〇〇〇万円

一一  既払金についての遅延損害金 一四五一万七一二二円

乙六九、七〇及び弁論の全趣旨によると、被告は、原告麻梨奈に対し、損害賠償の内金として平成七年二月一五日に五〇万円を、同月二五日に三四五〇万円を、同年八月一四日に三〇〇〇万円を支払ったことが認められるが、これらの支払について本件事故日から右各支払時までの遅延損害金について同原告が放棄したと認めるような事情もないから、各支払について、少なくとも原告麻梨奈主張の遅延損害金、すなわち、五〇万円につき一〇万五六一六円、三四五〇万円につき七三三万四七九四円、三〇〇〇万円につき七〇七万六七一二円が発生しており、その合計額は一四五一万七一二二円となる。

なお、被告は、右遅延損害金について消滅時効の成立を主張するけれども、損害の内金の支払がなされたというだけで、右内金に対する遅延損害金につき損害元本と独立して消滅時効の進行が開始するとは解し難いから、被告の右主張は採用することができない。

一二  既払金控除後の損害金 八八二九万七一五四円

以上の損害の合計額は一億六六一八万四九三〇円であり、ほかに遅延損害金が一四五一万七一二二円である。前記のとおり、既払金が九二四〇万四八九八円であるところ、交通事故の損害賠償実務に照らすと、内金の支払は損害の元本に充当することを指定してなされるものと認められるから、右損害額から右既払金を控除すると、損害金残金は七三七八万〇〇三二円となり、これに右遅延損害金を加えると、八八二九万七一五四円となる。

一三  弁護士費用 八八〇万円

一四  合計 九七〇九万七一五四円

以上のとおり損害の合計額は九七〇九万七一五四円となるが、うち損害の元本が八二五八万〇〇三二円であり、遅延損害金が一四五一万七一二二円である。

一五  原告憲一及び原告典子の慰謝料 各二〇〇万円

本件事故の態様、原告麻梨奈の後遺障害の状況その他本件に顕れた諸般の事情に照らし、原告麻梨奈の両親である原告憲一及び原告典子についても固有の慰謝料としてそれぞれ二〇〇万円を認めるのが相当である。

一六  結論

よって、原告麻梨奈の請求は、九七〇九万七一五四円及びうち八二五八万〇〇三二円に対する本件事故日である平成二年一一月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、また、原告憲一及び原告典子の請求は、それぞれ二〇〇万円及びこれに対する右平成二年一一月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、いずれも認容し、原告らのその余の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井満)

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